プロボノで何ができる？ NPOが成果を得るためのプロジェクトと成果物設定のポイント
プロボノ活用でNPOの課題解決を推進する
多くのNPOや地域団体は、社会課題の解決や地域活性化に向けて熱心な活動を展開されています。一方で、資金、人材、専門スキルといったリソースの制約に直面し、団体が持つ可能性を最大限に引き出せていないと感じる場面も少なくないのではないでしょうか。
このような状況において、プロボノ（Pro bono publico: 公益のために）という手法が注目されています。プロボノは、専門的なスキルや経験を持つ個人（プロボノワーカー）が、その能力を活かして非営利団体などの公益的な活動を支援するものです。ウェブサイト『連携プロボノ事例集』では、プロボノによる企業、NPO、個人の連携が、どのように団体の課題解決や目標達成に貢献しているかの事例を紹介し、プロボノ活用の可能性を広げることを目指しています。
プロボノ活用に関心をお持ちのNPO運営者の方々からは、「具体的にどのような課題をプロボノにお願いできるのだろうか」「プロボノを活用して期待通りの成果を得るためには、どうすれば良いのだろうか」といった疑問や不安の声が聞かれます。この記事では、プロボノで実現可能なプロジェクトの例と、連携を成功させるために不可欠な「成果物」の設定方法に焦点を当てて解説いたします。
プロボノで解決できるNPOの課題とプロジェクトの例
プロボノワーカーは、企業や組織で培った多様な専門スキルや実務経験を持っています。これらのスキルは、NPOが抱える様々な課題の解決に貢献することが可能です。プロボノで支援を依頼できる代表的な分野とプロジェクトの例を以下に示します。
- 広報・ブランディング:
- ウェブサイトの新規構築またはリニューアル
- ソーシャルメディアを活用した情報発信戦略の立案
- 広報ツールのデザイン・作成（パンフレット、チラシなど）
- プレスリリース作成、メディアリレーション構築の助言
- マーケティング・ファンドレイジング:
- 寄付者獲得・継続のための戦略立案
- クラウドファンディングページのコンテンツ企画・作成支援
- イベント企画・実行に関する助言
- ターゲット層への効果的なアプローチ方法分析
- 組織運営・マネジメント:
- 中長期的な事業計画・経営戦略の策定支援
- 組織内の業務フロー改善、効率化コンサルティング
- 人事制度、労務管理に関する専門的助言
- リスクマネジメント体制構築の支援
- IT・システム:
- 業務管理システムの選定・導入支援
- データ分析基盤の構築に関する助言
- ITセキュリティに関するコンサルティング
- 法務・会計:
- 契約書、規約等のリーガルチェック
- コンプライアンス体制構築に関する助言
- 会計・税務処理に関する専門的助言（税理士等の有資格者による）
- デザイン・クリエイティブ:
- ロゴ、VI（ビジュアル・アイデンティティ）のデザイン
- 報告書やプレゼン資料のデザイン性向上
- 動画コンテンツの企画・制作支援
これらの例は一部に過ぎません。プロボノの可能性は、NPOが抱える具体的な課題と、プロボノワーカーが持つ専門性を掛け合わせることで広がります。重要なのは、自団体の課題を明確に把握し、その解決にどのような専門スキルが役立つかを検討することです。
プロボノ連携成功の鍵：具体的な「成果物」を設定する
プロボノ連携において、NPO側が「期待していた成果が得られなかった」という状況を避けるためには、プロジェクトの開始前に「どのような成果物を求めているのか」を明確に設定することが非常に重要です。成果物が明確であることは、以下の点で連携の成功に寄与します。
- 目的とゴールの共有: プロボノワーカーとNPOの間で、プロジェクトを通じて何を達成したいのか、最終的にどのような状態を目指すのかという目的意識を共有できます。
- 認識のずれの防止: 抽象的な「〇〇を改善したい」といった要望ではなく、「〇〇の計画書（A4、10ページ程度）を完成させる」「△△に関するガイドライン（ウェブサイト掲載用）を作成する」のように、具体的な「成果物」の形や内容を合意することで、お互いの認識のずれを防ぎます。
- プロジェクトの方向性維持: 成果物が明確であれば、プロジェクト進行中に議論が脱線しそうになった際も、常に成果物完成という目標に立ち返ることができます。
- 進捗確認と評価の基準: 成果物に向かってプロジェクトがどの段階にあるのかを進捗状況として確認しやすくなります。また、最終的な成果物の内容によって、プロジェクトの成功度を評価する基準となります。
具体的な成果物設定の方法
では、どのようにして具体的な成果物を設定すれば良いのでしょうか。
- 課題と目標の再確認: まず、プロボノで解決したい課題と、その解決によって達成したい最終的な目標を改めて明確にします。目標設定には、具体的（Specific）、測定可能（Measurable）、達成可能（Achievable）、関連性（Relevant）、期限設定（Time-bound）というSMART原則が役立ちます。
- 「形」になるものを想定する: 達成したい目標を考えたとき、最終的にどのような「形」や「アウトプット」があれば、その目標に到達したと言えるのかを具体的に想像します。
- 例：ウェブサイトからの問い合わせ数を増やしたい → ウェブサイトの改修案リストと実装仕様書、または改修されたウェブサイトそのもの。
- 例：広報活動を強化したい → 年間広報計画書、プレスリリース作成テンプレート、広報用写真・動画の管理ガイドライン。
- 例：業務効率を上げたい → 現状業務フローの分析レポートと改善提案書、新しい業務マニュアル。
- 成果物の範囲（スコープ）を定める: プロボノワーカーの稼働時間やプロジェクト期間には限りがあります。期待する成果物の内容、量、品質、機能などの「範囲（スコープ）」を現実的に設定し、プロボノワーカーと事前に合意します。全てを網羅しようとせず、最も優先順位の高い課題に絞り込むことも重要です。
- 完了の定義を明確にする: 設定した成果物が「完成」「完了」したと判断できる状態を、具体的に定義します。（例：「計画書がNPO側の承認を得た状態」「ウェブサイト改修案がプロボノワーカーからNPOへ提出され、質疑応答を経て最終化された状態」など）
- 中間成果物と報告方法を取り決める: プロジェクト全体の成果物だけでなく、途中段階での成果物（例：現状分析レポート、構成案、プロトタイプなど）や、定期的な進捗報告の方法（例：週1回のオンラインミーティング、月次報告書の提出など）についても合意しておくと、プロジェクトを円滑に進める上で効果的です。
これらの要素を文書化し、プロジェクト開始前にプロボノワーカーと共有し、共通認識を持つことが極めて重要です。
連携におけるその他の注意点
成果物の明確化は成功の大きな要因となりますが、それ以外にも円滑なプロボノ連携にはいくつかの注意点があります。
- NPO側の準備: プロジェクトに必要な情報や資料を事前に整理・提供する準備が必要です。プロボノワーカーは団体の内部事情に明るくないため、オリエンテーションを丁寧に行い、背景や現状を正確に伝えることが重要です。
- コミュニケーション: 定期的なコミュニケーションを心がけ、不明点は速やかに確認し、相互理解を深めることが円滑な連携につながります。
- 役割分担と責任: NPO側とプロボノワーカー双方の役割と責任範囲を明確にしておくことで、手戻りやトラブルを防ぎます。
- プロボノの特性理解: プロボノワーカーは本業の傍ら活動されている場合が多いです。稼働できる時間には制約があることを理解し、無理のないスケジュール設定と、感謝の気持ちを伝える姿勢が大切です。
まとめ
プロボノは、NPOがリソースの壁を越えて、組織の課題を解決し、活動をさらに発展させていくための有効な手段です。プロボノワーカーが持つ専門性は多岐にわたり、広報、マーケティング、組織運営、ITなど、様々な分野で具体的なプロジェクトを推進することが可能です。
プロボノ連携を成功に導くためには、解決したい課題を明確にし、プロジェクトを通じてどのような「成果物」を得たいのかを具体的に設定することが不可欠です。成果物の形、範囲、完了の定義などを事前にプロボノワーカーと十分に話し合い、共通認識を持つことが、期待通りの結果を得るための重要な一歩となります。
ぜひ、自団体が抱える課題と、プロボノによる解決の可能性について具体的に検討してみてください。そして、成果物設定という視点から、プロボノ活用への最初の一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。