NPOがプロボノで組織基盤を強化:ビジョン・ミッション・事業計画策定連携事例
はじめに
非営利団体、特にNPOや地域団体では、社会的な使命を果たすべく活動を続けていますが、限られたリソースの中で組織の長期的な方向性を定めたり、具体的な活動計画を体系的に構築したりすることに課題を感じている場合が多く見られます。団体の「羅針盤」とも言えるビジョンやミッションが不明確であったり、それに基づいた事業計画が描けていなかったりすると、日々の活動に追われ、団体の持続的な成長や効果的な社会課題解決が難しくなることがあります。
このような状況において、プロボノという形で外部の専門家の知見を活用することは、組織基盤を強化し、団体の可能性を広げる有効な手段となり得ます。本記事では、プロボノワーカーとの連携を通じて、団体のビジョン・ミッションを再構築し、具体的な事業計画を策定することで組織基盤を強化したNPOの事例をご紹介いたします。
プロボノ連携に至った背景
今回ご紹介するNPOは、地域の子どもたちの学びの機会を提供する活動を行っていました。しかし、設立から数年が経過し、活動の広がりとともに、当初の漠然とした目標だけでは組織を導くことが難しくなってきていました。具体的には、以下のような課題を抱えていました。
- ビジョン・ミッションの不明確さ: 団体の最終的に目指す姿や存在意義が組織内外に十分に浸透しておらず、活動の優先順位付けや新たな取り組みへの判断基準が曖昧になっていました。
- 事業計画の欠如: 短期的なイベント企画は得意でしたが、中長期的な視点に立った具体的な事業計画がなく、リソース配分や資金調達の戦略が立てにくい状況でした。
- 組織内の意識統一の難しさ: メンバー間で活動への理解度やモチベーションに差があり、組織として一体感を持って進むための共通認識が不足していました。
これらの課題を解決するため、NPOの代表者は外部の専門知識の必要性を感じていました。特に、組織戦略や経営企画に関する経験を持つプロフェッショナルな視点を取り入れたいと考え、プロボノによる支援を検討し始めました。資金的な制約がある中で、高い専門性を持つ人材に協力を依頼できるプロボノは、まさに求めていた支援の形でした。
プロボノワーカーの専門性と選定プロセス
この事例において連携したプロボノワーカーは、企業の経営企画部門で戦略策定や組織開発に携わった経験を持つ、いわゆる「戦略系」の専門家でした。団体の課題を踏まえ、論理的な思考力、構造的な課題分析力、多様な関係者の意見をまとめるファシリテーション能力などが重視されました。
プロボノワーカーの選定にあたっては、プロボノを仲介するプラットフォームを活用しました。団体の抱える具体的な課題と、期待するプロボノワーカーのスキルや経験、プロジェクトの期間や求める成果物を明確にした募集要項を作成し、掲載しました。応募者の中から、これまでの経験や団体の活動への共感度、コミュニケーションスタイルなどを考慮し、最も相応しいと思われるプロボノワーカーとの面談を経て決定しました。団体のミッションへの共感と、課題解決に対する熱意があるかどうかも重要な選定ポイントとなりました。
連携の具体的なプロセス
プロジェクトは、約4ヶ月の期間で進められました。主なプロセスは以下の通りです。
- キックオフとオリエンテーション: プロボノワーカーと団体メンバー(代表者、主要スタッフ、理事など)が集まり、プロジェクトの目的、範囲、スケジュール、役割分担、コミュニケーション方法などを共有しました。ここで、団体の現状の課題や関係者の想いをプロボノワーカーが深く理解することが重視されました。
- 現状分析と課題の深掘り: 団体がこれまでの活動で蓄積したデータや資料を共有し、プロボノワーカーが分析を行いました。また、主要なメンバーや関係者へのインタビューを実施し、組織の内外から見た課題や期待、強み・弱みを多角的に把握しました。ビジョン・ミッションに関するワークショップも複数回開催し、メンバー間の認識の違いを明らかにし、共通の言葉を見つけるための議論を深めました。
- ビジョン・ミッションの再構築: 分析結果とワークショップでの議論を踏まえ、団体の核となるビジョン(目指すべき将来像)とミッション(なぜ存在するのか)のドラフトを作成しました。プロボノワーカーは、言葉の選び方、簡潔さ、団体の活動との整合性などの観点から専門的なアドバイスを提供しました。団体のメンバー全員で共有し、納得感のある言葉になるまで検討を重ねました。
- 事業計画のフレームワーク策定: 再構築されたビジョン・ミッションに基づき、それを実現するための中長期的なロードマップと、それを構成する主要な事業分野のフレームワークを設計しました。プロボノワーカーは、一般的な事業計画の構成要素や戦略策定の考え方を提示し、団体の活動内容に合わせてカスタマイズする支援を行いました。
- 具体的な事業計画への落とし込み: フレームワークに基づき、各事業分野における具体的な目標設定(KPI含む)、ターゲット、活動内容、スケジュール、必要なリソース(人材、資金)、想定されるリスクなどを詳細に検討しました。プロボノワーカーは、実現可能性、具体性、目標との整合性などの観点からフィードバックを行い、計画の精度を高めました。
- 組織内への浸透と共有: 策定したビジョン・ミッションと事業計画を、団体の全メンバーや関係者に共有するためのプレゼンテーション資料を作成しました。共有会や説明会を実施し、策定プロセスへの参加が少なかったメンバーにも内容を理解してもらい、当事者意識を持ってもらうための工夫を行いました。
連携期間中、週に一度の定例ミーティングに加え、必要に応じてオンラインでの情報交換や資料共有が頻繁に行われました。プロボノワーカーは単に答えを提示するのではなく、団体メンバー自身が考え、議論し、納得しながら計画を策定できるように、プロセス設計やファシリテーションに注力しました。
得られた成果
このプロボノ連携によって、NPOは以下の重要な成果を得ることができました。
- 明確なビジョン・ミッションの策定と浸透: 団体の存在意義と目指す方向性が明確になり、メンバー間で共通認識を持つことができました。これにより、日々の活動の意義を再確認し、モチベーション向上に繋がりました。対外的にも団体の目的を自信を持って説明できるようになり、信頼性向上に貢献しました。
- 体系的な事業計画の策定: 中長期的な視点に立った具体的な行動計画が可視化されました。これにより、リソースの優先順位付けや効果的な配分が可能となり、活動の効率化が進みました。また、資金調達の申請においても、具体的な計画を示すことができるようになり、説得力が増しました。
- 組織内のエンゲージメント向上: 計画策定プロセスに多くのメンバーが関わることで、組織への当事者意識やコミットメントが高まりました。自分たちの手で団体の未来を創り上げているという実感を持つことができ、組織全体の活性化に繋がりました。
- 外部連携の促進: 明確になったビジョンと計画を示すことで、他の団体や企業との連携において、協力の目的や期待する成果を具体的に伝えられるようになり、より効果的な連携の機会が増加しました。
成功のポイント
このプロボノ連携が成功した要因としては、以下の点が挙げられます。
- NPO側の主体的な関与: 団体代表者だけでなく、主要なメンバーがプロジェクトに積極的に関与し、時間とリソースを投資しました。プロボノワーカーはあくまで伴走者であり、計画策定の主体はあくまでNPO自身であるという共通認識が重要でした。
- 明確なコミュニケーションと期待値調整: 定期的なミーティングやオープンな対話を通じて、進捗状況、課題、懸念事項などをタイムリーに共有しました。プロボノワーカーの役割や提供できる範囲について、事前に明確な期待値調整を行ったことも、後々の誤解を防ぐ上で効果的でした。
- アウトプットの具体的な活用イメージ: 作成されたビジョン・ミッションや事業計画が、単なる資料として終わるのではなく、実際の活動や組織運営にどのように活かされるかという具体的なイメージをプロジェクト開始時から持っていました。これが、質の高いアウトプットを目指すモチベーションとなりました。
- プロボノワーカーの献身性と柔軟性: プロボノワーカーが団体のミッションに深く共感し、限られた時間の中で最大限の価値を提供しようと献身的に関わったこと、また、非営利組織特有の事情やリソースの制約に対して柔軟に対応したことが、良好な関係構築とプロジェクト推進に大きく貢献しました。
連携において注意すべき点と学び
一方で、連携を進める上で注意すべき点や、そこから得られた学びもありました。
- 組織内の意見集約の難しさ: 多様なバックグラウンドを持つメンバーの意見をまとめ、共通のビジョン・ミッションを策定するプロセスは、想定以上に時間と労力を要しました。プロボノワーカーのファシリテーション能力が非常に重要であることを改めて認識しました。
- プロボノワーカーへの依存: プロボノワーカーの専門性に頼りすぎるのではなく、団体のメンバー自身が考え、学ぶ姿勢を持ち続けることが重要です。知識やフレームワークを一方的に提供してもらうのではなく、共に考え、理解を深めるプロセスこそが、団体の財産となります。
- 時間管理: プロボノワーカーも本業を持つため、ミーティング時間の調整や情報共有のスピードなど、時間管理には常に配慮が必要でした。事前に無理のないスケジュールを設定し、柔軟に対応できる体制を整えることが望ましいです。
この経験から得られた大きな学びは、プロボノは単に専門スキルを提供するだけでなく、団体の内発的な成長を促す触媒となり得るということです。外部の専門家との対話を通じて、組織の強みや課題を客観的に見つめ直し、メンバーが主体的に未来を考える機会を得られたことが、この連携の最大の価値であったと言えます。
まとめ
プロボノによる専門家の支援は、NPOや地域団体が抱えるリソース不足や専門知識の課題を克服し、組織基盤を強化するための強力な手段です。本事例で見たように、ビジョン・ミッションの再構築や事業計画の策定といった、組織の根幹に関わる領域においても、プロボノの知見は有効に機能します。
もちろん、プロボノ連携にはNPO側の明確な課題意識、主体的な関与、そしてプロボノワーカーとの信頼関係構築に向けた努力が不可欠です。しかし、適切な準備とプロセスを経ることで、外部の専門性と団体の熱意が融合し、想像以上の成果を生み出す可能性があります。
もし、貴団体が組織の方向性や計画策定に課題を感じているのであれば、プロボノ活用を検討してみてはいかがでしょうか。最初の一歩は、団体の現状を整理し、どのような専門性を持つ人材のサポートがあれば課題解決に進めるかを考えることから始まります。この事例が、貴団体がプロボノ連携を通じて組織基盤を強化し、より大きな社会的インパクトを生み出すための一助となれば幸いです。