リソースに課題を抱えるNPOへ:プロボノ連携を始める前に知っておくべきこと
NPOが直面するリソースの壁とプロボノという選択肢
多くの特定非営利活動法人(NPO)や地域団体は、社会課題の解決に向けて情熱を持って活動されています。しかし、活動を継続・発展させる上で、資金、人材、専門スキルといったリソースの不足は、常に大きな課題として立ちはだかっているのではないでしょうか。特に、本業で専門的なスキルを持つ人材をフルタイムで雇用することは、多くの団体にとって容易ではありません。
こうした状況の中で、近年注目されているのが「プロボノ」の活用です。プロボノとは、「公共善のために」を意味するラテン語「Pro Bono Publico」を語源とする言葉で、一般的には、各分野の専門家が自身のスキルや専門知識を活かして行う社会貢献活動を指します。企業に勤めるビジネスパーソン、士業、クリエイターなど、多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナルが、自身の本業で培った経験やスキルを活かし、NPOなどの非営利団体を支援するものです。
プロボノは、リソースに課題を抱えるNPOにとって、専門的なサポートを得るための有効な手段となり得ます。しかし、「プロボノに依頼できることの範囲が分からない」「どのような専門家を探せば良いのか」「連携はどのように進めるのか」といった疑問や不安から、活用に踏み出せないという声も聞かれます。
この記事では、プロボノ活用を検討されているNPOの皆様に向けて、プロボノで何ができるのか、検討の際に考慮すべき点、そして連携開始に向けた最初の一歩を踏み出すための基本的な考え方と実践的な情報を提供いたします。
プロボノでNPOが期待できること
プロボノ活用を通じて、NPOは多様な専門分野からのサポートを受けることができます。これにより、団体の組織基盤強化や事業推進に大きく貢献することが期待できます。具体的には、以下のような分野でプロボノの専門性が活かされています。
- 広報・マーケティング: Webサイトのリニューアル、SNS活用の戦略策定・実行支援、パンフレットや報告書のデザイン・作成、プレスリリースの作成支援など。
- 経営・組織戦略: 事業計画策定支援、資金調達戦略立案、新規事業の企画立案、組織体制の見直し、人材育成計画の策定など。
- IT・システム: 業務効率化ツールの導入支援、データベース構築、Webサイトの技術的なサポート、IT戦略策定など。
- 法務・労務・経理: 契約書の確認、就業規則の整備、適切な経理処理体制の構築支援、コンプライアンス体制の構築など。
- その他: 調査・分析、研修プログラム開発、評価指標の設定など、専門的な知見が必要な多岐にわたる分野。
これらの専門的なサポートをプロボノに依頼することで、NPOは限られた資金や人的リソースを、団体のミッション達成のためのコア業務により集中させることが可能になります。
プロボノ活用を検討する際のポイント
プロボノ活用が有効な手段である一方で、すべての課題がプロボノで解決できるわけではありません。プロボノ連携を成功させるためには、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。
1. 自組織の課題を明確にする
プロボノに何を依頼するかを考える前に、まず自組織が現在抱えている課題を正確に把握することが最も重要です。「なんとなく人手が足りない」「専門知識が欲しい」といった漠然とした状態ではなく、「〇〇事業の広報が弱く、認知度が低い」「△△業務に時間がかかりすぎて非効率である」「ファンドレイジング戦略がなく、資金が安定しない」といった具体的な課題を特定する必要があります。
2. プロボノで解決可能か見極める
特定した課題が、プロボノによるプロジェクト型支援に適しているかを見極めます。プロボノは、多くの場合、特定の期間や範囲を定めたプロジェクトとして実施されます。したがって、以下のような特性を持つ課題がプロボノ向きと言えます。
- プロジェクトとして切り出せるもの: 例:Webサイト制作、広報戦略策定、就業規則見直しなど、開始と完了があり、成果物が明確なもの。
- 専門性が求められるもの: 例:法務関連、ITシステム構築、高度なデザインなど、団体内にノウハウがない分野。
- 組織内に主体者・担当者がいるもの: プロボノワーカーはあくまで支援者であり、最終的な実行主体はNPO側です。プロジェクトを推進し、プロボノワーカーと連携する担当者を置くことが不可欠です。
逆に、日常的な定型業務、継続的なオペレーション、団体の内部的な意思決定が伴う根幹的な課題など、プロボノワーカーが関与しづらい課題もあります。
3. 期待する成果を具体的に設定する
プロボノプロジェクトでどのような状態を目指すのか、具体的な成果物を設定することが重要です。「広報を強化したい」ではなく、「新しいターゲット層に向けたWebサイトのトップページデザイン案とコピーを作成する」「SNS投稿の効果測定方法を定める」といったように、プロジェクト完了時に何が得られるかを明確にします。これにより、プロボノワーカーも目標を理解しやすく、連携が円滑に進みます。
プロボノワーカーの探し方と連携開始の準備
課題と期待する成果が明確になったら、次はプロボノワーカーを探し、連携の準備を進めます。
プロボノワーカーを探す
- プロボノマッチングサイトの活用: NPOとプロボノワーカーを繋ぐ専門のマッチングプラットフォームが存在します。登録することで、団体のニーズに合ったスキルを持つプロボノワーカーを探すことができます。多くのサイトでは、プロジェクト単位で募集を行い、応募者の中から最適な人材を選定するプロセスを提供しています。
- 既存のネットワーク: 団体の活動を応援してくださる支援者や、地域、関連団体とのネットワークを通じて、プロボノとして協力してくれる専門家が見つかることもあります。
連携開始に向けた準備
プロボノワーカーが見つかったら、プロジェクトを円滑に進めるための準備を行います。
- オリエンテーション: プロボノワーカーに対して、団体のミッション、活動内容、組織文化、そして今回のプロジェクトの背景、目的、期待する成果、担当者、スケジュールなどを丁寧に伝えます。団体の活動への理解を深めてもらうことが、良好な関係構築とプロジェクト成功の土台となります。
- プロジェクト計画と役割分担の確認: プロボノワーカーと共同で、または事前に作成したプロジェクト計画(目標、スコープ、スケジュール、担当者、コミュニケーション方法など)を詳細に確認し、お互いの役割と責任範囲を明確に合意します。
- コミュニケーション体制の確立: プロジェクト期間中の定期的な進捗報告や打ち合わせの頻度、使用するツール(メール、チャット、オンライン会議システムなど)を定めます。密なコミュニケーションは、認識のずれを防ぎ、課題に早期に対応するために不可欠です。
- 合意形成: プロジェクトの内容、期間、成果物、役割分担などについて、書面での合意形成を図ることが望ましいです。これにより、お互いの期待値が明確になり、トラブルを未然に防ぐことにつながります。
連携における基本的な注意点
プロボノ連携は、無償または低額の支援ではありますが、プロフェッショナルなサービスを受けるという認識を持つことが重要です。
- リスペクトと感謝の気持ち: プロボノワーカーは、自身の時間やスキルを活かして社会貢献をされています。そのご厚意と専門性に対して、常にリスペクトと感謝の気持ちを持って接することが、良好な関係を維持するために最も大切です。
- 主体性の保持: プロボノワーカーはあくまで支援者です。プロジェクトの推進主体はNPO側であり、プロボノワーカーからの提案や成果物を最大限に活用するための組織内の準備や実行力が必要です。
- 期待値の調整: プロボノは無償のサービスであり、必ずしも本業と同じレベルの稼働時間や対応速度を期待できるとは限りません。プロジェクトの初期段階で、可能な稼働時間や役割について正直に話し合い、現実的な期待値を設定することが重要です。
- 情報の共有とフィードバック: プロジェクトに必要な情報(団体の資料、関連データなど)を timely に提供し、プロボノワーカーからの質問には誠実に回答します。また、プロジェクトの進捗や成果物に対して、定期的に建設的なフィードバックを行うことで、より質の高い成果に繋がります。
まとめ:プロボノ活用でNPOの新たな可能性を拓く
リソース不足はNPOの活動にとって避けがたい課題の一つです。しかし、プロボノという形で外部の専門家の知見やスキルを戦略的に活用することで、この壁を乗り越え、団体の可能性を大きく広げることができます。
プロボノ連携を成功させる鍵は、自組織の課題を正確に特定し、プロボノで解決できる範囲を見極め、期待する成果を明確に設定することです。そして、適切なプロボノワーカーと出会い、丁寧な準備と密なコミュニケーションを通じて、信頼関係を築きながらプロジェクトを進めることです。
この記事でご紹介した基本的な考え方やステップが、プロボノ活用への最初の一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。このウェブサイトでは、様々な分野での具体的なプロボノ連携事例や、プロジェクトの進行管理、契約、成果評価など、プロボノ活用をさらに深めるための記事も多数掲載しています。ぜひそちらも参考にしていただき、貴団体の課題解決と成長にプロボノを活かしてください。