NPOがプロボノ活用で魅せる広報ツール作成:デザイン・コピーライティング支援事例
はじめに
NPOや地域団体は、社会課題の解決に向けて熱心な活動を展開しています。しかしながら、多くの場合、活動資金や専門スキルを持つ人材が限られているという課題に直面しています。特に、団体の活動内容や成果を広く伝えるための広報活動は重要でありながら、魅力的なチラシやパンフレット、報告書などを制作する専門的なデザインスキルやコピーライティングのノウハウが不足しているケースが少なくありません。
このような状況において、外部の専門家が持つスキルや知見を社会貢献のために提供する「プロボノ」は、NPOにとって非常に有効な解決策となり得ます。本記事では、NPOがプロボノワーカーとの連携を通じて、どのように広報ツールの質を向上させ、情報発信力を強化したのか、具体的な事例を通じてご紹介いたします。
連携に至った背景:情報発信の課題
今回ご紹介する事例は、環境保護活動に取り組むあるNPO法人(以下、A団体)です。A団体は、長年にわたり地域での啓発活動やイベント実施を通じて、多くの支援者や参加者を得てきました。しかし、団体の活動内容や成果をより多くの潜在的な支援者や地域住民に伝えたい、という課題を抱えていました。
具体的には、 * 活動報告書がテキスト中心でデザイン性が低く、内容が伝わりにくい。 * イベント告知チラシのデザインが単調で、参加者の興味を引きつけられない。 * ウェブサイトの情報が古く、更新が滞りがちである。
といった点が課題でした。専従スタッフは日々の活動運営に追われ、広報物の企画・制作まで手が回らない状況であり、外部の専門業者に依頼する資金的な余裕もありませんでした。A団体は、プロボノを活用することで、これらの広報に関する課題を解決し、団体の情報発信力を抜本的に強化したいと考えました。
プロボノワーカーの選定と役割
A団体は、プロボノ募集プラットフォームを通じて、広報ツールの制作支援を必要としていることを発信しました。求める専門性は、グラフィックデザインスキルと、活動の魅力を引き出すコピーライティングスキルです。
複数のプロボノ希望者の中から、A団体は以下の専門性を持つ2名のプロボノワーカーを選定しました。 * B氏(グラフィックデザイナー): 広告制作会社で勤務経験があり、視覚的な情報伝達に長けている。 * C氏(コピーライター): 企業の広報部門で勤務経験があり、ターゲットに響く言葉選びが得意。
B氏には活動報告書やチラシのデザインレイアウト、イラスト・写真選定などを、C氏にはそれらの広報物に掲載する文章の作成・編集、キャッチコピー考案などを担当いただくことになりました。
連携の具体的なプロセス
この連携プロジェクトは、約3ヶ月の期間で実施されました。具体的なプロセスは以下の通りです。
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プロジェクトの立ち上げと目標設定: プロジェクト開始にあたり、A団体とプロボノワーカーのB氏、C氏でキックオフミーティングを実施しました。ここでは、プロジェクトの目的(例: 活動報告書の視認性向上、チラシによるイベント参加者増加)と、具体的な成果物(改訂版活動報告書のデザイン案、新しいイベント告知チラシのデザイン・コピー)を明確に定義しました。また、各成果物のターゲット読者や伝えたいメッセージを共有し、目指すべき方向性を一致させました。
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情報共有とオリエンテーション: A団体は、これまでの活動報告書、過去の広報物、団体の理念や活動内容に関する資料をプロボノワーカーに提供しました。また、活動現場の見学や、代表者・スタッフからのヒアリングの機会を設けることで、A団体の雰囲気や伝えたい熱意を深く理解いただけるように努めました。
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共同での企画・制作: B氏とC氏は連携しながら、提供された情報をもとに広報物の構成案やデザインの方向性を検討しました。定期的にオンラインミーティングを実施し、A団体にラフ案や文章のドラフトを提示し、フィードバックを受けながら修正を進めました。コミュニケーションツールとしては、共有フォルダでの資料管理や、チャットツールでの日常的な連絡を活用しました。
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成果物の完成と納品: A団体からの承認を得て、最終的なデザインデータと原稿が完成しました。B氏からは印刷に適した形式のデータが、C氏からは完成したコピーが納品されました。
得られた成果
このプロボノ連携により、A団体は以下の具体的な成果を得ることができました。
- 活動報告書の視認性向上: 図や写真を効果的に配置し、専門的な内容も分かりやすく解説するデザインと、活動の意義を感動的に伝える文章により、読了率の向上や共感獲得につながりました。
- イベント告知チラシの効果向上: ターゲットの関心を引くキャッチコピーと、目を引くデザインにより、例年と比較してイベント申し込み数が20%増加しました。
- 広報ノウハウの獲得: 制作プロセスを通じて、デザインの基本的な考え方や、効果的なコピーライティングのポイントについて、A団体のスタッフも学ぶ機会を得ました。
- 団体のイメージ向上: プロフェッショナルな広報物により、団体の信頼性や魅力が向上し、新たな支援者や連携先との関係構築に良い影響を与えました。
これらの成果は、単に見た目が良くなったというだけでなく、A団体の情報発信力が強化され、活動のインパクトを高めることに繋がっています。
成功のポイント
今回のプロボノ連携が成功した要因はいくつか考えられます。
- 目標と成果物の明確化: プロジェクト開始時に、何を目指すのか、どのような成果物が必要なのかを具体的に定義し、関係者間で共有したことが、ブレのない進行に繋がりました。
- A団体の積極的な情報提供と意思決定: プロボノワーカーがNPOの活動を深く理解できるよう、惜しみなく情報を提供し、質問には迅速かつ丁寧に回答しました。また、提示された案に対するフィードバックや最終決定を迅速に行うことで、プロジェクトがスムーズに進みました。
- プロボノワーカーのNPOへの理解と提案力: B氏、C氏は単に依頼されたものを作るだけでなく、A団体の理念や活動への熱意を深く理解しようと努め、その上でプロフェッショナルな視点からより良い表現方法を積極的に提案しました。
- オープンなコミュニケーション: 定期的なミーティングと日常的なチャットツールの活用により、疑問点や懸念事項をすぐに解消し、円滑なコミュニケーションが維持されました。
注意すべき点と学び
一方で、連携を進める中で注意すべき点や学びもありました。
- 表現のすり合わせ: NPOが伝えたい想いや専門的な内容と、プロボノワーカーが提案するデザインやコピーの間に、当初若干のずれが生じることがありました。これは、丁寧な対話を通じて、お互いの意図を確認し、表現を調整することで乗り越えました。
- スケジュールの調整: プロボノワーカーは本業の傍ら活動するため、急な依頼への対応や、NPO側の希望するスピード感に常に応えられるわけではありません。事前に無理のないスケジュールを設定し、お互いの稼働状況を共有することが重要であると学びました。
- 成果物の最終責任: デザインやコピーの決定権はNPO側にあります。プロボノワーカーからの提案を参考にしつつも、団体のポリシーや目的に沿っているか、最終的な判断はNPO側が責任を持って行う必要があります。
結論:プロボノ連携による広報強化の可能性
今回の事例は、資金や人材の限られたNPOが、プロボノワーカーの専門スキルを活用することで、広報物の質を飛躍的に向上させ、情報発信力を強化できることを示しています。デザインやコピーライティングといった特定の専門分野に課題を感じているNPOにとって、プロボノは非常に有効な手段です。
プロボノ連携を成功させるためには、NPO側が自組織の課題と目標を明確にし、必要な専門性を具体的にプロボノワーカーに伝えることが重要です。また、プロジェクト期間中の密なコミュニケーションと、お互いの立場への理解が円滑な連携には不可欠です。
ぜひ、貴団体の情報発信における課題を整理し、プロボノ活用による解決の可能性を検討してみてはいかがでしょうか。専門家の力が、貴団体の活動をより多くの人に「魅せる」ための強力な一歩となるはずです。