連携プロボノ事例集

NPOがプロボノと連携する際に押さえておきたい契約と成果物定義のポイント

Tags: プロボノ, NPO運営, 契約, 成果物, 連携

はじめに:プロボノ連携における期待と不安

NPOや地域団体を運営されている皆様の中には、限られたリソース、特に資金や専門人材の不足に課題を感じていらっしゃる方が多いことと存じます。そのような状況において、プロボノは専門的なスキルを持つ企業人や個人から無償または低額でのサポートを受けられる有効な手段として注目されています。ウェブサイト『連携プロボノ事例集』では、プロボノによる企業・NPO・個人の連携成功事例を紹介し、その活用可能性を広げることを目指しています。

しかしながら、「プロボノを活用したいけれど、具体的にどう進めれば良いか分からない」「連携後のトラブルが心配」「成果物が期待したものと違う可能性があるのでは」といった不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。特に、プロボノワーカーとの間で、プロジェクトのゴールや得られる成果物、さらには契約や知的財産権といった法務・契約的な側面について、どのように認識を合わせ、何を定めておくべきかは重要な検討事項です。

本記事では、プロボノ連携を円滑に進め、期待する成果を得るために、NPO側がプロボノワーカーとの間でどのように契約や成果物の定義を行うべきか、またその際に留意すべき点について、具体的なポイントを解説いたします。

プロボノ連携における「契約」の考え方と重要性

プロボノ活動は、多くの場合、金銭的な対価を主目的としない社会貢献活動の一環として行われます。そのため、厳密な請負契約や業務委託契約を締結しないケースも見られます。しかし、たとえ無償の協力関係であっても、連携にあたっての双方の役割、責任範囲、期待される成果、活動期間などを明確に定めることは、互いの信頼関係を築き、プロジェクトを成功に導く上で非常に重要です。

なぜなら、曖昧な状態での連携は、以下のようなリスクを生む可能性があるためです。

これらのリスクを低減し、安心して連携を進めるために、必ずしも正式な「契約書」でなくても、連携の目的や内容、成果物などを明記した「覚書」や「確認書」といった形で書面にて合意形成を行うことを推奨いたします。

成果物定義のポイント:何を、どのように、いつまでに?

プロボノ連携において、最も具体的な合意が必要となるのが「成果物」です。どのような成果物が期待されるかをプロボノワーカーと詳細に擦り合わせ、共通認識を持つことが、期待通りの結果を得るための第一歩となります。

成果物を定義する際には、以下の点を具体的に定めることが有効です。

これらの要素を明確にするためには、NPO側が抱える課題やプロジェクトの目的をプロボノワーカーに正確に伝え、期待する成果についてオープンな対話を重ねることが不可欠です。プロボノワーカーの専門的な視点から、より効果的な成果物の形や実現可能性についてアドバイスを得ることも可能です。

連携合意書(覚書)に盛り込むべき主な項目

正式な契約書に代わるものとして、連携合意書や覚書を作成する場合、以下のような項目を含めることで、後々の誤解やトラブルを防ぐことに繋がります。

  1. 目的: 連携を通じて達成したいこと、解決したい課題を明確に記載します。
  2. 連携期間: プロジェクトの開始日と終了日、または成果物の納品期日などを定めます。
  3. 双方の役割と責任: NPO側が提供するもの(情報、資料、連絡窓口など)と、プロボノワーカー側が行うこと(業務内容、成果物の作成など)を具体的に定めます。
  4. 成果物: 前項で定義した成果物の内容、形式、納品期日などを詳細に記載します。中間成果物や報告の要否についても定めます。
  5. 費用: プロボノ活動は原則無償ですが、交通費や資料代などの実費が発生する場合の取り扱い(NPO側が負担するのか、負担する場合の範囲など)を定めます。
  6. 連絡方法と頻度: プロジェクト期間中の主な連絡手段(メール、オンライン会議ツールなど)や、定例ミーティングの頻度などを定めます。
  7. 秘密保持: プロジェクト遂行上知り得たお互いの機密情報に関する取り扱いを定めます。
  8. 知的財産権: 成果物に関する著作権などの知的財産権がどちらに帰属するか、または共同で所有するか、NPO側が成果物をどのように使用できるかなどを定めます。この点は特に重要なため、次項で詳しく触れます。
  9. 契約の変更・解除: 合意内容を変更する場合の手続きや、やむを得ず連携を中断・終了する場合の条件などを定めます。
  10. 免責事項: 予期せぬ事態や成果が計画通りに進まなかった場合の、双方の責任範囲について記載を検討します。

これらの項目はあくまで一般的な例であり、個別のプロジェクト内容に応じて必要な項目を追加したり、不要な項目を削除したりしてください。専門的な内容については、必要に応じて専門家(弁護士など)に相談することも検討してください。

知的財産権に関する注意点

プロボノ活動によって生まれた成果物(デザイン、文章、プログラム、企画書など)には、著作権などの知的財産権が発生します。これらの権利が誰に帰属するか、NPO側は成果物をどのように利用できるかについて、連携開始前に明確に合意しておくことが、将来的なトラブルを防ぐ上で極めて重要です。

考えられる取り決めとしては、以下のようなケースがあります。

どのような取り決めとするかは、プロジェクトの内容や成果物の性質、そして双方の意向によって異なります。大切なのは、「なんとなく」や「後で考えよう」とせず、連携開始前に文書で明確に合意し、その内容を合意書や覚書に記載しておくことです。特に、成果物をウェブサイトや広報資料で二次利用・三次利用する可能性がある場合は、その範囲を明記しておくことが望ましいでしょう。

コミュニケーションを通じて合意を深める

合意書や覚書を作成し、書面で取り交わすことは重要ですが、それが連携の全てではありません。文書はあくまで、対話を通じて形成された合意内容を記録するツールです。

プロボノワーカーとの間で期待値のずれなくプロジェクトを進めるためには、定期的なコミュニケーションが不可欠です。

これらのコミュニケーションを通じて、文書に記載された内容の理解を深め、互いの信頼関係を強化していくことが、プロボノ連携を成功させるための鍵となります。

まとめ:明確な合意でプロボノ連携を成功へ

プロボノは、NPOのリソース不足を補い、専門的な知見やスキルを取り入れることができる非常に価値のある連携形態です。しかし、その効果を最大限に引き出し、円滑な関係を維持するためには、プロジェクト開始前に成果物の定義や契約・覚書による合意形成をしっかりと行うことが重要です。

本記事で解説したポイント(成果物の具体的な定義、合意書・覚書に含めるべき項目、知的財産権に関する注意点、そして継続的なコミュニケーションの重要性)を参考に、プロボノワーカーとの建設的な対話を通じて、 mutually beneficial(相互に利益となる)な連携関係を構築してください。

明確な合意形成は、プロボノワーカーが安心して活動に専念できる環境を提供すると同時に、NPO側が期待通りの成果を得て、団体のミッション達成や成長に繋げるための基盤となります。ぜひ、これらの実践的なポイントを活用し、プロボノ連携の一歩を踏み出していただければ幸いです。