NPOがプロボノ連携で進める事業継続計画(BCP)策定:専門家と築く組織のレジリエンス
NPOの活動継続を支える事業継続計画(BCP)とプロボノの可能性
非営利組織(NPO)は、社会的な使命を果たすため、日々様々な活動に取り組んでいます。しかし、自然災害、感染症の流行、主要な資金源の途絶、主要スタッフの離脱といった予期せぬ事態は、活動の継続を困難にする可能性があります。このようなリスクに備え、組織が被害を最小限に抑え、速やかに事業を再開・継続するための計画が事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)です。
多くのNPOにとって、BCPの策定は重要性を認識しつつも、専門知識を持った人材や策定に充てる時間、予算が限られていることから、後回しになりがちな課題かもしれません。しかし、プロボノワーカーの専門的な知見を活用することで、この課題を克服し、組織のレジリエンス(回復力・適応力)を高めることが可能です。
このコラムでは、プロボノ連携を通じてNPOがBCP策定を進めるための具体的な方法と、連携を成功させるためのポイントについてご紹介します。
なぜ今、NPOにBCP策定が必要なのか
NPOは、支援を必要とする人々や地域社会に対して責任を負っています。緊急事態が発生した場合でも、活動を継続し、必要なサービスを提供し続けることは、NPOの信頼性に関わる重要な要素です。BCPを策定しておくことは、以下のような点で組織にとって大きなメリットをもたらします。
- 活動中断リスクの軽減: 事前にリスクを洗い出し、対策を講じることで、緊急時の混乱を減らし、活動の中断期間を短縮できます。
- ステークホルダーからの信頼向上: ドナー、助成元、行政、地域住民、受益者など、様々なステークホルダーに対して、組織が危機管理意識を持ち、責任ある運営を行っていることを示すことができます。
- 組織内部の対応力強化: スタッフやボランティアが緊急時にどのように行動すべきか明確になり、組織全体の対応能力が向上します。
- 復旧コストの削減: 事前の計画により、復旧にかかる時間やコストを抑えることが期待できます。
プロボノ連携がBCP策定にもたらす価値
BCP策定には、リスク分析、事業影響度分析(BIA)、対策立案、計画文書作成など、専門的な知識やプロセス管理能力が求められます。こうした領域は、リソースが限られるNPOにとって、自組織だけで対応することが難しい場合があります。
ここでプロボノワーカーの専門性が大きな力を発揮します。企業でリスクマネジメントや事業継続計画に携わった経験のある専門家、プロジェクトマネジメントのスキルを持つ人材などがプロボノとして参画することで、NPOは以下のようなメリットを得られます。
- 専門知識・ノウハウの活用: 組織内部にはないBCP策定に関する専門的な知識や、他組織での成功事例などを学ぶことができます。
- 客観的な視点: 組織の内部事情に精通しているからこそ見落としがちなリスクや課題について、外部の視点からの客観的な分析や提案を得られます。
- プロジェクト推進力の向上: 計画策定という複雑なプロセスを、プロジェクトとして管理・推進するスキルを持ったプロボノワーカーが加わることで、停滞しがちなプロジェクトを効率的に進めることができます。
- スタッフの学びと成長: プロボノワーカーとの協働を通じて、リスク管理やプロジェクト管理に関するスタッフの知識やスキル向上にも繋がります。
プロボノ連携によるBCP策定の具体的な進め方
プロボノ連携でBCP策定を進める際には、以下のようなステップで取り組むことが一般的です。
-
プロジェクトの目的と範囲の明確化:
- どのようなリスク(例: 地震、台風、システム障害、資金難)に重点的に備えるか、BCPの対象とする事業範囲、目標とする復旧時間などを組織内で十分に議論し、明確にします。
- この段階で、プロボノワーカーに期待する役割(例: 計画策定プロセスの設計、リスク分析手法の提供、文書作成支援、ワークショップのファシリテーションなど)を具体的に定義します。
-
プロボノワーカーの選定:
- BCP策定やリスクマネジメントに関する専門知識、プロジェクトマネジメント経験、あるいはNPOの活動分野への理解があるプロボノワーカーを探します。プロボノマッチングサイトや専門家団体などを活用することが考えられます。
- スキルだけでなく、NPOの文化や価値観に共感し、伴走者として共に計画を作り上げていく意欲のある人材を見つけることが重要です。
-
連携体制の構築とキックオフ:
- NPO側の担当者(窓口)、プロボノワーカー、必要に応じて関わる理事やスタッフを含めたプロジェクトチームを組成します。
- プロジェクトの目的、スコープ、スケジュール、各メンバーの役割、コミュニケーションルールなどを共有するキックオフミーティングを実施し、共通認識を形成します。
- 定期的な進捗共有会議(オンライン会議も活用)を設定し、円滑なコミュニケーションを図ります。
-
BCP策定プロセス(プロボノと協働):
- 事業影響度分析(BIA): 中断した場合の影響が大きい重要業務を特定し、それぞれの目標復旧時間や目標復旧レベルを定義します。プロボノワーカーのファシリテーションでワークショップ形式で進めることも有効です。
- リスク評価: 特定した重要業務に対して、どのようなリスクが存在し、発生した場合の影響度や発生可能性がどの程度かを評価します。プロボノワーカーがリスク評価のフレームワークやツールを提供できます。
- 事業継続戦略の検討・策定: リスクへの対応策、代替手段、資源の確保方法などを検討し、具体的な戦略を策定します。プロボノワーカーの専門知識に基づいた多様な選択肢や最新動向に関する情報提供が役立ちます。
- BCP計画書の文書化: 策定した戦略に基づき、緊急時の対応手順、連絡体制、役割分担などを明記したBCP計画書を作成します。プロボノワーカーが構成案作成や専門的な表現の調整を支援できます。
-
計画の実効性検証と組織への定着:
- 策定したBCPが実際に機能するか、訓練やシミュレーションを通じて検証します。プロボノワーカーから検証方法に関する助言を得られます。
- BCP計画書を組織内で共有し、スタッフや関係者への周知徹底を図ります。必要に応じて説明会や研修を実施します。プロボノワーカーが説明資料作成や研修の一部を担当することも考えられます。
- BCPは一度作ったら終わりではなく、組織の変化や外部環境の変化に合わせて定期的に見直し、改訂していく必要があります。見直しの体制をどのように構築するかについても、プロボノワーカーと相談しながら計画に盛り込むと良いでしょう。
連携における注意点と成功のためのポイント
プロボノ連携によるBCP策定を成功させるためには、いくつかの注意点とポイントがあります。
- NPO側の主体性: BCPは「誰かが作ってくれるもの」ではなく、組織自身が主体的に考え、策定し、実行するものです。プロボノワーカーはあくまでそのプロセスを支援する存在であることを理解し、NPO側が積極的に議論に参加し、意思決定を行う姿勢が不可欠です。
- 組織内の合意形成: BCPは組織全体で共有・実行される必要があるため、理事会や主要スタッフ、必要に応じて現場スタッフからの理解と協力を得るためのプロセスが重要です。プロジェクトの初期段階から関係者を巻き込むための工夫をプロボノワーカーと共に行うと良いでしょう。
- プロボノワーカーへの適切な情報提供: 組織の事業内容、運営体制、既存のリスク対策、利用可能な資源など、正確かつ十分な情報を提供することで、プロボノワーカーはより的確な支援を行うことができます。情報の範囲や機密性については事前にすり合わせを行います。
- 期待値のすり合わせ: プロボノワーカーの専門性や提供できる時間には限りがあります。どこまでをプロボノに依頼し、どこからを組織内部で担当するか、あるいは外部の有償サービスを利用するかなど、期待値と役割分担を明確に定めます。完璧なBCPを一度に目指すのではなく、段階的に整備していく視点も重要です。
- 成果物の引き継ぎと活用: プロボノ連携で完成したBCP計画書や関連資料を、組織内部で適切に管理し、緊急時に活用できるよう体制を整えます。プロボノ終了後の見直し体制についても計画しておきます。
まとめ:プロボノ連携でNPOの未来を守る
プロボノ連携は、NPOが事業継続計画(BCP)策定という専門的かつ重要な課題に取り組むための有効な手段です。外部の専門家の知見と客観的な視点を取り入れることで、リソースの制約を超え、実効性のある計画を策定することが可能になります。
BCPの策定は、単にリスクに備えるだけでなく、組織の事業内容や運営体制を見つめ直し、より強靭な組織へと成長させる機会でもあります。プロボノワーカーとの協働を通じて、組織のレジリエンスを高め、どのような状況下でも社会的な使命を果たし続けられる体制を築くための一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。