プロボノ連携でNPOの情報発信力を強化:マーケティング戦略立案事例
はじめに:情報発信に課題を抱えるNPOの皆様へ
NPOや地域団体が活動を継続・発展させるためには、その目的や活動内容を社会に伝え、共感や支援を得ることが不可欠です。しかしながら、多くの団体では、日々の運営に追われ、専門的な知識や経験を持つ人材が不足していることから、効果的な情報発信やマーケティングに十分なリソースを割くことが難しいという現実があります。
どのようにすれば、限られたリソースの中でも、団体の想いを多くの人に届け、活動の輪を広げることができるのでしょうか。一つの有効な手段として、プロボノによる専門家のサポートを活用することが挙げられます。本記事では、プロボノとの連携によってマーケティング戦略を立案し、情報発信力の強化を実現したNPOの具体的な事例を通して、そのプロセスと成果、そして連携における重要なポイントをご紹介します。
連携に至った背景:情報が「届かない」という課題
今回ご紹介するNPO法人〇〇(仮称)は、特定の社会課題解決に向けた活動を長年行ってきた団体です。活動自体は非常に意義深く、参加者や関係者からの評価も高いものでした。しかし、より多くの人々に活動を知ってもらい、支援の輪を広げたいという目標に対して、情報発信に課題を抱えていました。
具体的には、以下のような状況でした。 * ウェブサイトは存在するものの、情報が整理されておらず、初めて訪れた人には活動内容が伝わりにくい。 * SNSアカウントは持っているが、どのように活用すれば効果的なのか分からない。 * 団体のターゲット層や、どのようなメッセージを届けたいのかが曖昧。 * 広報担当者がおらず、特定の職員が片手間に情報発信を行っている状態。 * 専門的なマーケティングの知識や経験を持つ人材が団体内にいない。
これらの課題に対し、〇〇法人〇〇の代表者は、外部の専門家の力を借りたいと考えていました。特に、営利目的ではない活動であるため、高額なコンサルティング費用を支払うことは困難であり、プロボノという形で専門家がサポートしてくれる仕組みに関心を持ったのです。
プロボノワーカーの専門性と選定プロセス
団体の課題を踏まえ、必要とされたのは「NPOの特性を理解し、限られたリソースの中で実行可能なマーケティング戦略を立案できる専門家」でした。具体的には、マーケティング戦略の策定、ターゲット設定、メッセージ開発、デジタルマーケティング(特にウェブサイトとSNS)に関する知識・経験を持つプロフェッショナルが求められました。
プロボノワーカーの選定にあたっては、プロボノを仲介する団体のサポートを受けました。団体の課題やニーズを明確に言語化し、求めるスキルや経験、連携への期待を伝達しました。仲介団体からの提案を受け、面談を通じて、団体への共感、課題への理解度、提案されるアプローチ、そしてNPOとの連携経験などを考慮して、最適なプロボノチーム(今回は複数の専門性を持つワーカーで構成)を選定しました。選定されたプロボノワーカーは、企業のマーケティング部門で戦略立案やデジタルプロモーションに携わる経験者や、広報・PRの実務経験者でした。
連携の具体的なプロセス
連携は、約半年にわたるプロジェクトとして進行しました。以下にその主なステップを示します。
- キックオフとオリエンテーション: プロジェクトの目的、ゴール、スケジュール、役割分担、コミュニケーション方法などを共有しました。NPO側からは団体の詳細な活動内容、歴史、組織体制、これまでの広報活動、抱える課題などを丁寧に説明しました。プロボノ側は、プロジェクトでどのような成果を目指すのか、期待される役割などを確認しました。
- 課題の深掘りと目標設定: プロボノワーカーがNPOのメンバーへのヒアリングや既存資料の分析を通じて、情報発信に関する根本的な課題をさらに深く理解しました。その上で、半年後の到達点として「ウェブサイト訪問者数の増加」「特定のターゲット層からの問い合わせ増加」「SNSフォロワー数の〇〇%向上」など、具体的な定量・定性目標を設定しました。この段階で、NPO側の「何をどこまで実現したいのか」という漠然とした希望が、具体的な目標に落とし込まれたことが重要でした。
- マーケティング戦略の立案: 設定した目標に基づき、プロボノチームが主体となって戦略立案を進めました。対象とするべき主要なターゲット層を明確にし、それぞれのターゲットに響くメッセージを開発しました。また、情報伝達のチャネル(ウェブサイト、SNS、ニュースレター、イベントなど)を選定し、それぞれの役割や活用方針を具体的に設計しました。この過程で、NPOのメンバーも議論に参加し、団体の実情に即した実現可能性の高い戦略となるよう意見交換を行いました。
- 実行計画の策定とサポート: 立案した戦略を実行するための具体的なアクションプラン(誰が、何を、いつまでに行うか)を策定しました。プロボノワーカーは、戦略を実行するためのツール(例: コンテンツ作成のテンプレート、SNS運用ガイドライン)の提供や、初期段階でのアドバイス、簡単な研修などを行いました。実行の主体はあくまでNPO側であり、プロボノは伴走者としてサポートする形式を取りました。
- 定期的な進捗確認とコミュニケーション: プロジェクト期間中は、隔週でオンライン会議を実施し、進捗状況の共有、課題の洗い出し、解決策の検討を行いました。また、メールやチャットツールを活用し、日常的なコミュニケーションを密に取るように心がけました。
得られた成果
半年間のプロボノ連携を通じて、NPO法人〇〇は以下のような成果を得ることができました。
- 明確なマーケティング戦略の獲得: 団体の活動を効果的に伝えるためのターゲット、メッセージ、チャネル戦略が明確になりました。これにより、「誰に」「何を」「どのように伝えるか」に迷うことがなくなり、一貫性のある情報発信が可能となりました。
- 実行可能なアクションプランとツール: 戦略を実行するための具体的な計画と、ウェブサイトやSNSで活用できるコンテンツ作成のテンプレート、運用ガイドラインといった実践的なツールを得ることができました。これにより、職員が自らの手で戦略を実行するための道筋が見えました。
- 情報発信の質の向上と変化: ウェブサイトのコンテンツ構成が見直され、訪問者にとって分かりやすい情報配置になりました。また、SNSでの投稿内容や頻度、ターゲットに合わせた表現などが改善され、以前よりも多くの反応を得られるようになりました。
- 団体の認知度向上への手応え: 戦略に基づいた情報発信の強化により、ウェブサイトへのアクセス数が増加傾向にあり、問い合わせ数も微増しました。これは、より多くの人々に団体の存在や活動が届き始めていることの証左であり、今後の支援者獲得や活動拡大への期待が高まりました。
- 組織内のスキル向上と意識変化: プロボノワーカーとの連携を通じて、マーケティングに関する基本的な考え方やデジタルツールの活用方法など、職員のスキルが向上しました。また、情報発信の重要性に対する組織全体の意識が高まりました。
成功のポイント
今回のプロボノ連携が成功した主なポイントは以下の通りです。
- NPO側の明確な課題認識と目標設定への積極性: 団体が抱える情報発信の課題を具体的に認識し、プロボノワーカーと共に目標設定に積極的に関わったことが、プロジェクトの方向性を明確にしました。
- プロボノワーカーの専門性とNPOのニーズの的確なマッチング: 団体の課題解決に必要なマーケティング分野の専門知識・経験を持つプロボノワーカーを選定できたことが、質の高い戦略立案につながりました。
- 密なコミュニケーションと信頼関係の構築: 定期的な会議や日常的なやり取りを通じて、プロボノワーカーとNPO職員の間で信頼関係が構築されました。これにより、率直な意見交換が可能となり、課題発生時にもスムーズな連携が実現しました。
- 成果物の明確な定義と柔軟な対応: プロジェクト開始時に、戦略レポートや実行計画、各種ガイドラインなどの成果物を具体的に定義しました。一方で、プロジェクト進行中に生じる予期せぬ状況にも柔軟に対応し、目標達成に向けた軌道修正を行いました。
- NPO側の「実行する体制」の確保: プロボノは戦略立案や計画策定、アドバイスを行いますが、実際の情報発信はNPO側が行う必要があります。今回の事例では、担当職員がプロボノからのアドバイスを受けながら実行することで、成果につなげることができました。NPO側に「学んで実行する」という意欲と体制があったことが成功要因の一つです。
連携における注意すべき点と学び
今回の連携から得られた学びとして、いくつかの注意点も挙げられます。
- 期待値の適切な調整: プロボノワーカーは限られた時間の中で活動するため、団体の課題全てを解決できるわけではありません。連携開始前に、プロボノによってどこまでが可能で、何はNPO側で担う必要があるのか、期待値を適切に調整することが重要です。
- コミュニケーションのタイムラグへの理解: プロボノワーカーは通常、本業を持ちながら活動しています。そのため、依頼したことに対する返答や成果物の提出に時間がかかる場合があることを理解し、余裕を持ったスケジュール設定や計画的なコミュニケーションを心がける必要があります。
- NPO側の積極的な関与: プロボノは「外部の専門家」として客観的な視点や専門知識を提供しますが、団体の理念や文化、実情を最も理解しているのはNPOのメンバーです。戦略立案や計画策定のプロセスに積極的に関与し、プロボノと共同で作り上げていく姿勢が不可欠です。
- 成果物の活用体制の整備: プロボノによって素晴らしい戦略や計画が策定されても、それを実際に実行し、継続的に活用していくのはNPO側の役割です。連携プロジェクトの終了を見据え、誰がどのように成果物を引き継ぎ、日々の業務に落とし込んでいくのか、体制を事前に検討しておくことが重要です。
今後の展望
NPO法人〇〇では、今回のプロボノ連携で策定されたマーケティング戦略とアクションプランに基づき、今後も情報発信の強化を継続していく計画です。得られたツールや知識を活用しながら、自走できる体制を築いていくことを目指しています。また、今回成功したプロボノ連携の経験を活かし、今後も他の分野(例えば、ITツールの活用や資金調達の仕組みづくりなど)でもプロボノの専門知識を活用することを検討しています。
まとめ:プロボノ連携が拓くNPOの未来
本事例は、情報発信という多くのNPOが抱える課題に対して、プロボノによる専門家のサポートが有効な解決策となり得ることを示しています。プロボノは単に作業を代行するのではなく、NPOの課題を共に深掘りし、団体が自走するための知識やツール、戦略を提供することで、組織の成長に貢献します。
リソース不足にお悩みのNPOや地域団体の皆様におかれましては、団体の課題解決や目標達成のために、プロボノ活用を一つの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。具体的な進め方や専門家の探し方については、プロボノを支援する様々なサービスやプラットフォームが存在します。まずは団体の課題を整理することから始めてみてください。プロボノとの連携は、団体の新たな可能性を拓く一歩となるはずです。